過去の質問「よくある質問Q&A 近視は治るのか?」でも触れましたが、視力回復の方法についてはご質問が多いので再度取り上げます。
まず、眼球の形自体が近視の形になってしまっている場合は、手術をするしか裸眼の視力を回復する方法はありません。
手術というのは、よくテレビでCMされている「レーシック」や「目の中にレンズを埋め込む」手術です。
特に強度の近視の場合は、眼球の前後の距離(眼軸長)が伸びている場合が多く、この場合は、手術以外での裸眼視力回復は物理的に不可能です。
「視力回復センター」を名乗る業者が「強度近視でもどんな近視でも効果がある」などと広告している場合がありますが、「どんな近視でも改善する」というのは、ありえません。過大広告です。
ひどい例だとチラシに、強度近視のために網膜に変性が起きているような症例の眼底写真が載っており、視力回復センターに通うことによって近視が治り、眼底の変性も治った(変性のない眼底写真提示)、などと書いてありました。
強度近視による網膜変性は現代医学では治療不可能です。
もし治療方法を発見して、学会で認められれば世界的なニュースになるはずです。
視力回復センターに通って、仮性近視なら改善することがあるかもしれませんし、まじめに取り組んでいる業者もあるかもしれません。
でも「どんな人でも視力が回復する」と謳う広告の業者は要注意です。
お子様の目をよくしてあげたいと一心に思う、親御様の気持ちにつけこんだ過大広告としかえいない商法も時々見かけるため、あえてここで記述しました。
手術以外で、視力が回復する可能性があるのは「仮性近視」の場合だけです。「仮性近視」とは、ゲームや読書など近くを見る作業を長時間行うと、一時的にピントが近くによったままになり、しばらく戻らなくなることです。
この状態で遠くをみても、普段よりもぼんやり見え、視力を測ってもいつもよりも低い結果になります。
小学生や中学生など若い人は、大人よりも近くのものにピントを合わせる力があります。だんだん年齢と共に近くにピントがあいづらくなり、しまいに近くがみえなくなると、老眼ということになります。
若い人は、近くを見る力が強すぎるために、本人が望まなくてもピントが近くによったままになりがちです。
さらに普段からDSやPSPなどの携帯ゲーム、スマホなどを長時間操作していると、一日の大半が仮性近視の状態に陥っていたりします。
こういった場合には「ピントを近くに寄せる筋肉を緩める目薬」を治療に用います。一日一回夜寝る前に毎日点眼し、毎日筋肉の緊張をとり、仮性近視状態から脱出させていきます。
目薬と同じ効果を、ワックという会社の機械で行う場合もあります。
「仮性近視の点眼による治療」を効果がないとし、「仮性近視」の存在そのものをも否定している眼科医もいます。
しかしながら、そもそも近視の原因についてはよく分かっておらず、遺伝要素(親が近視)と環境要素(近くをたくさん見る)が複雑にからみあって起きると考えられています。
原因がはっきりわかっていないものに対して「存在しない」「効果がない」と断言することはできないと思います。
私個人の考えとしては、現実的に日々の臨床の中では、やはり読書やゲームを多くしているお子様に裸眼視力が悪くなる方が多い気がします。
そういったお子様はまず仮性近視から始まることが多いので、仮性近視は本当の近視の入り口になりうるという意見には比較的肯定的です。
なので、自分のクリニックでは、仮性近視の可能性についてご説明し、リクエストがあれば、仮性近視を取り払うための目薬による治療や、ワックを用いた訓練も積極的に行っています。